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2012年8月

2012年8月27日

失って得られたことの悲しさ

 ジャーナリストの山本美香さんが、取材先のシリアで政府軍に銃撃されて亡くなった。伝えられるところによると、アサド政権はジャーナリストを狙い撃ちしているようだ。山本さんは、その犠牲になってしまった。

 国家でも組織でも企業でも、外部に伝えられてはまずいようなことをしていると、ジャーナリストを退けようとする。正確にいうとジャーナリストを避けようとするのは国家、組織、企業ではなく、為政者、指導者、経営者である。一方、彼らは自分の主張をそのまま一方的に流してくれる媒体や「ジャーナリスト」を大歓迎する、という共通点をもっている。

 戦場や紛争地帯などを取材するジャーナリストは、常に死と隣り合わせにいる。これまでの歴史の中でたくさんのジャーナリストが取材現場で非業の最期を遂げている。なかでも真っ先に頭に浮かんでくるのはロバート・キャパである。スペイン内戦で人民戦線の兵士が頭を撃たれた瞬間を撮った「崩れ落ちる兵士」の印象が強かったからかもしれない。日本人でも、「安全への逃避」でピューリッツァー賞を受賞した沢田教一さんや、一之瀬泰造さんなどの名前を思い浮かべる。

 山本さんが最後に撮った映像をインターネットでみたが、紛争の中で生きる市民、子供や赤ちゃんなどが映し出されていた。山本さんが伝えようとしていたものが何だったのかを、ほんの少しだけだが理解できたような気がする。

 シリアの状況は新聞やテレビなどを通して一応は知っていた。だが、多くの市民が死傷していることも含めて、自分とは遠い世界の出来ごとでしかなかった。山本さんの死によってシリアの市民が置かれている現状を、身近な問題として実感するようになった。

 何かを得るということは何かを失うということでもある。山本さんはジャーナリストとしての志を貫いたが、その代償が非業の死であったことは残念である。
 
 ご冥福をお祈りします。

2012年8月20日

風刺問答「兵站は平坦にあらず」

 軽薄学生=国境の島が騒がしくなってきましたね。韓国の大統領が竹島に行くなんて驚きました。
 裏読先生=物事は裏を読まなければいかんよ君。韓国の大統領は、他国の領土でもかってに施設をつくって人を常駐させてしまった方が有利、まごまごしてると尖閣諸島も竹島の二の舞になってしまうぞ、と警鐘を鳴らしてくれたのかも知れない。しかも、国内では自分の人気回復にもなるという戦略的行動という見方もできる。だが、ちょっと乗り過ぎた発言もあったな。
 
 軽薄学生=そんな裏読みもできるのですか。さっそく香港の活動家たちが魚釣島に上陸しましたね。不法入国ですぐに逮捕されましたけど。
 裏読先生=あれだって裏があるかも知れない。保釣行動委員会は、香港の民主派を中心に発足した団体なので、中国政府には批判的な勢力といわれている。船の購入費は親中派の実業家が出したという話もあるし、活動資金など分からない面もあるが、一応、民主派なら中国政府とは距離をおく組織といえる。今年3月の香港行政長官選挙でも中国政府の介入などが云々されたように、一国二制度とはいってもジワジワと中国政府の支配が強まりつつあることに危機感をもち、日本を経由して亡命しようとしたのかも知れないという勘ぐりもできないわけじゃない。
 軽薄学生=尖閣諸島に上陸するといえば、白昼堂々と日本領土に入れるし、逮捕(保護)してもらえるという筋書きですか。

 裏読先生=とりあえず強制送還にしたが、「決められる」総理なのだから、これをキッカケに、政治生命をかけて尖閣諸島に駐在所を設置する作戦だろうという声もある。さらにオスプレイは垂直離着陸ができるから、滑走路のない尖閣諸島でも配備できるという高度な戦略的意図も日本政府ならもっているだろう。
 軽薄学生=すると竹島も尖閣もこの間の一連の動きは、日本政府が裏で描いたシナリオということですか。深謀遠慮とはこのことですね。日本には外交戦略や防衛戦略などがないと思っていましたが間違いでした。深く反省します。ところで、これは「物流コラム」ですよね。物流の話が全然出てこないのですが。

 裏読先生=もっと勉強をしたまえ。尖閣諸島にお巡りさんが常駐するようになれば、必要物資をいかに効率的に補給するかがテーマになるだろう。
 軽薄学生=それこそロジスティクス。まさに兵站ですね。やっと理解できました。
 裏読先生=兵站を極めるのは、けっして平坦な道ではないということも肝に銘じておきなさい。

2012年8月13日

再び粋な計らい

 2週間前の「無人駅下車」の中で、アクシデントがなければ生涯降りることのない駅に下車したのも天の粋な計らい、と書いた。ところが、再び粋な計らいである。

 この間、台湾で台北、花蓮、高雄、台南と周ってきたのだが、花蓮でのこと。当初は太魯閣峡谷に行く予定だった。しかし、沖縄地方を襲った台風9号は、台湾にも大きな被害をもたらした。訪れたのは台風9号が過ぎた後で天候には恵まれたのだが、大雨による土砂崩れなどの被害が大きかった。

 地元のドライバーの人が、「せっかく来たのだから、行けるところまでは行ってみましょう」と努力してくれたのだが、崩れた土石で8号線のいたるところが片側交互通行になっている。復旧作業をしている傍らを慎重に進んでいったのだが、そのうち、もう少しで道路に落ちかかっている大きな岩に穴をあけ、ダイナマイトを仕掛けている現場に差し掛かった。作業をしている人にドライバーがきいたら、30分後に爆破するという。その先に行ってしまうと、爆破処理した土石を道路から除去するまでは戻ることができない。

 そこで予定を変更して、さて、どこに行こうか。小生は日本の占領時代の史跡などを観ることにした。ドライバーは地元の人だけに、一般の観光客がめったに行かないような所をよく知っている。将校の住まいや、日本軍が事務所に使っていた建物、特攻隊の宿舎だった所などである。

 事務所だった建物では、地元のおばちゃんが4人いて、ボランティアで管理しているとのこと。ノートに名前とどこから来たのかを書いてくれというので「日本」と書いたら歓迎された。そもそも見学者が少ないのだが、ましてや日本人はめったに来ないらしい。高齢の方たちなので日本語が上手で、あれこれ説明していただいた。

 お土産もお飾り程度においてあった。僅かでも何か買おうと3点ほど選んだら、これがまた大変だった。お土産を購入する人はまれなようで、おばちゃんたちは大はしゃぎ。日本円にして合計650円程度だが手書きの領収書を発行するという。ところが領収書を書いたことがない人だったので書き方が分からないらしい。そこで書き方を知っている人が教えることになったのだが、わいわい、がやがやと大騒ぎだった。

 こんな経験も、天の粋な計らいと受け止めよう。

2012年8月 6日

温暖化

 うだるような暑さとは、よく言ったものだ。まさに茹でられているような毎日である。一方、湿度が高い日には、蒸し蒸しすると表現する。

 唐突だが、茹でタコと蒸しタコの違いをご存じだろうか。取材をしていると様ざまな現場を見ることができる。ある食品会社を訪ねたとき、茹でタコと蒸しタコの両方の工程を見せてもらった。簡単にいうと、タコを熱湯のなかに入れて加熱処理するのが茹でタコ。それに対して、蒸気で加熱処理するのが蒸しタコである。まぁ、どうでも良いことだが、とにかく暑い。

 四国の松山の友人が無農薬の農産物を仕入れて、全国に販売する産直会社を経営している。学校給食用が主な販路のようだ。そのため何社かの路線(特積)会社に運送を委託しているが、時どき、輸送コスト削減の相談を受けることもある。そのような時には荷物の組み合わせ方とサービスメニューから、最適な運び方を指定して運賃を見積もらせる方法を教えている。あまりにも詳しいので、事業者側が驚くらしい。念のためにお断りしておくが、単価切り下げはなく、一番安い輸送方法で金額を見積もらせているのである。ついでながら、競合他社を出し抜こうと安い見積もりをもってくると、すぐに筆者にFAXが送られてくるようになっている。

 この友人の話では、温暖化のために最近は四国でもアボカドやブラッドオレンジなどが栽培されるようになっているという。従来は沖縄や地中海が産地だったものである。反面、四国の産物であったミカンがダメになり、今では長野県や栃木県などに産地が移っている。そして最近は、サクランボやリンゴが北海道でとれるようになったそうだ。温暖化に伴う産地の北方シフトである。

 この分だと、いずれは日本の中心が北海道になる可能性もある。考えてみるとヨーロッパなどの大都市は、札幌とだいたい同じような緯度にある。まだ地価が安いうちに北海道に土地を買っておいた方が良いかも知れない。

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