コンプライアンスという品質
コンプライアンスは、いうまでもなく法令順守である。したがって法令を順守することは当然のことなのだが、現在の日本においてはコンプライアンスが一つの品質になっている。法令違反にもいろいろあるが、様ざまな業種の企業において、とくに著しいのが従業員の待遇面などである。
15年ほど前に、ロシアなど旧社会主義国の物流企業を訪ねたことがある。趣旨は旧体制が崩壊した要因を物流という側面から探ってみたかったことが一つである。政治体制の崩壊は、基本的には経済のいきづまりが根底にあるという認識のもとに、経済破綻の様ざまな要素の一に物流システムがあるだろう、という問題意識であった。もう一つは、当時の物流の現状を調べたい、という趣旨である。
ロシアで何社かのトラック運送事業者を訪ねたが、共通して言っていたことの一つに、「当社は給料日にちゃんと給料を支払っている」ということだった。そんなことは当然のことで自慢できる話ではないのだが、当たり前のことができているというだけで、当時のロシアの運送事業者は「優良企業」だったことになる。これには苦笑するしかなかった。
ところがひるがえってみると、日本のトラック運送業界でも法定福利費を支払っていない事業者が多い。最近は多少は改善されつつあるが、それでも社会保険などに入っていない事業者が依然として少なくない。これからは若い人が減少していく。労働集約型の産業で若い労働力を確保できなければ企業の将来が危ぶまれる。
このようなことから、優良な荷主企業では取引事業者の見直しを進めつつある。自社の物流を安定的に維持するためには、コンプライアンスを軽視するような事業者に委託しておくことはできない。従業員の確保すらできなくなってくることが予想されるからだ。そこでコンプライアンスなどに問題のない事業者に、荷主企業から話が来るようになってきた。
法令順守は当然のことなのだが、それが品質の一つに位置づけられるようになってきたのである。最近、数人の経営者から同じような話を聞いた。コンプライアンスは品質なのである。
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