守秘義務と報道の判断
「特定秘密保護法案」が俎上にのっている。為政者が恣意的に特定秘密を指定できる点に問題がある。国民の知る権利や報道活動にも一見配慮しているようだが、法律が成立してしまえば、権力側の都合でいかようにも解釈や運用が可能だ。国家公務員法(第100条)や地方公務員法(第34条)でも公務員の守秘義務が定められているのだから、厳格に執行すればそれで良いのではないか。
いまは行政などの秘密に関係するような取材はしていないが、むかしは国家秘密ほどのレベルではないものの、行政の〈秘〉ぐらいの資料のコピーを入手するような取材もしていたことがある。ある時、某中央官庁の〈秘〉資料を手に入れた人(名前は知っていた人)が、誤字・脱字までそっくり活字にして公表してしまったことがある。〈秘〉とはいっても内容からすると、通常なら大騒ぎをするほどのことはなかったのだが、問題が大きくなってしまった。当該省庁管轄のある法律の改正が予定されていたのだが、その法律改正に反対していた勢力が、改正阻止とバーターにするためにことさら騒ぎだしたのである。その他にもいくつかのステークホルダーの思惑が絡んで、大きな問題になってしまった。
小生も同じ〈秘〉のコピーを入手していたが、さすが警察の捜査力はすごく、任意で事情聴取されることになってしまった。出頭ではなく、刑事が出向いてくるというので身構えていた。訪れた2人の刑事は、「あなたの書いたものは全部、国会図書館で読んできた。その結果、あなたも資料を持っているだろうと推定している。しかし、内容を上手に使っていて、持っていると断定できるような書き方はしていなかった。我われは秘密資料を入手するのはジャーナリストの仕事であり、当然だと思っている。また、それを上手に使うのがプロだ。ところが誤字・脱字までそっくり公表するような程度の低い者がいるから、我われも余計な仕事をしなければならないし、立場上あなたにも迷惑をかける」というようなことを言われた。
そこで事情聴取は形だけで雑談になった。もちろん、何気ない雑談も彼らのテクニックかも知れない。その手に乗ってはいけないので、慎重に言葉を選んで対応したのだが、プロと認めてもらえたことが内心では嬉しかった。27、28歳当時のことである。
守秘義務は公務員だけではなく、職業によっては守秘が求められる。法的な義務はなくとも道義的な「義務」もある。かりに秘密情報を入手したとしても、公表すべきか公表すべきでないか、また公表するとしてもどのように公表したら良いか、といったことは報道する立場で自主的に判断すれば良いことだ。その判断基準は国民の利益にとってどうか、である。
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