「報道操作」の裏読み
朝日新聞には呆れてしまった。故吉田清治氏の証言に基づく「慰安婦問題」の記事取り消し、福島第一原発事故をめぐる「吉田調書」報道における「所長命令に違反 原発撤退」の取り消しなどである。さらに週刊文春によれば、約2年前の任天堂の岩田聡社長へのインタビュー記事が、実際にインタビューしていないのにHPにおける岩田社長のコメントをつなぎ合せてインタビューしたかのように捏造していたという。
「慰安婦問題」では、池上彰氏のコラム掲載をめぐる不適切な対応も重なった。言論の自由を自ら踏みにじるような曲折である。「吉田調書」では、思い込みや記事のチェック不足が原因としているが(社長の謝罪会見時点で)、それだけではないように思う。そもそも記者に思い上がりがあるのではないか(これは朝日の記者に限らず全国紙の記者には一般的な傾向であり、テレビ関係者ではもっと酷い横柄な人たちが少なくない)。
もう一つは、政府が「調書」を公開しないだろうと踏んでいたのではないかと思われる。公開しない以上は政府も誤報だとクレームをつけることはできない。また、記事の内容を誰も検証することができないので、「よく考えれば2Fに行った方がはるかに正しいと思った」という部分を故意に無視しても大丈夫、と判断したのではないのか。
ところが政府は「調書」を公開した(公開用に編集したかどうかは分からない)。しかも公開する前に、一部の報道機関にリークする作戦をとったのではないかと思う。そうすれば朝日新聞の記事の間違いを大々的に報道してくれる。それによって朝日を叩くことができ、また「調書」全体の内容から目を逸らして誤報問題に関心を集中することができるからだ。朝日の誤報を強調するだけではなく、「調書」全体の検証こそ報道機関の重要な役割である。
これらの背景には、特定秘密保護法、集団的自衛権、憲法改正といった問題で、政権に批判的な朝日新聞、政権寄りの論調を展開する読売新聞、産経新聞といった構造がある。政権としては、朝日にダメージを与えるために、読売、産経を利用したという見方もできる。読売、産経にしても朝日の信用を失墜させることは自紙のメリットになる。
だが、朝日の誤報が「調書」を公開させるキッカケになったことは否定できないだろう(調書の総てかどうかは分からないが)。もし、特定秘密保護法が施行されていたら、「吉田調書」を漏らした関係者とそれを記事にした朝日の記者はどうなっていただろう? 大きな社会的影響力を持っているジャーナリストの池上彰氏が、言論の自由と特定秘密保護法に関して大々的に論じてほしいと願うものである。
最近のコメント