運賃値上げの構造的特徴
日銀の短観や生活意識調査、その他の機関の指標やデータ、専門家のコメントなどを総合的に判断すると、景気動向に構造的な特徴が明確に現れてきたような気がする。大企業の中でも輸出型の製造業は全体的に業績が良く、同じ大企業でも内需を主たる対象にした流通業は一部を除いて良くない、中小企業は全体的に厳しい状況にある、といった構造である。
輸出型の大手製造業も、国内市場ではなく外国市場に支えられており、また円安効果も業績に貢献している。したがって国内での設備投資などには慎重である。大手小売業は内需の落ち込みの影響が大きい。中小企業は全体的に厳しいが、そのなかでも中小製造業では原材料や電気料金などのコスト高騰を単価に転嫁できずに苦しんでいる。
トラック運送事業者も、労働力確保難や軽油価格高騰、コンプライアンス・コスト上昇などのなかで、この間、運賃・料金値上げに取り組んできた。その結果、全体的には運賃水準が上がってきている。だが、その内容を見ると、先述の構造的特徴を反映した形になっている。
たとえば大手小売業の取引先に対しては運賃値上げは厳しい。大手小売業は内需が冷え込むなかで、仕入れ条件もよりシビアになっており、食品や日用品などの大手メーカーといえども、バイイングパワーの関係から厳しい取り引きを余儀なくされている。そのため消費財などの大手メーカーの運賃値上げも難しい状況にある。
そこでトラック運送事業者の運賃値上げ要請も、勢い中小規模の取引先に矛先を向けることになる。そのようななかで一部では新たな変化も起き始めているようだ。傾向的には長年にわたって物流のアウトソーシングが続いてきた。自家用トラックから営業用トラックへのシフトである。ところが、中小規模の荷主企業とりわけ下請け、孫請けなどの部品製造業では、原材料その他のコスト高騰が単価に転嫁できないなかで、運賃がさらに上がると納品業務などを内製化した方が良い、という判断もあり得るというのだ。つまり、営業用トラックから自家用トラックへの逆シフトである。
また、農産物輸送の運賃動向も興味深い。生産者米価が大幅に下落したために、米の輸送では運賃が上がるどころか、反対に値下げ傾向が見られる。一方、野菜などの輸送では運賃の上昇幅が大きい。総務省の消費者物価指数でも、総合指数と生鮮食品を除いた指数が出される。つまり野菜などは「時価」で変動する。そのため運賃コストがかなり上昇しても、小売価格に転嫁できやすいことを示しているものと思われる。
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