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2014年12月 1日

「人」が「人々」だった時代

 前回のコラムでは高倉健さんについて書いた。企図したわけではないが、今回も関連したような内容になってしまう。

 高倉健さんを追悼して、テレビでは健さんが主演した映画を放送している。最近「あなたへ」と「幸福の黄色いハンカチ」をテレビで観た。「あなたへ」は健さんの最後の映画になってしまったが、晩年の味わい深さを実感した。それに対して「幸福の黄色いハンカチ」では昔を再発見した。とくに最後の方のシーンである。

 光江(倍賞千恵子さん)が黄色いハンカチを掲げて待っていてくれるかどうか。ためらう島勇作(高倉健さん)を小川朱美(桃井かおりさん)が、ともかく確認しようと説得し、花田欣也(武田鉄矢さん)が運転する車で夕張に行く。この時、3人が乗る車の窓から流れる夕張の街の風景をみて懐かしかった。

 夕張を訪ねたのは1987年6月下旬である。上砂川町の三井砂川炭鉱が閉山になったのが同年7月14日。閉山を直前にして、石炭輸送をしていた中小運送事業者への影響などをリポートするため、上砂川だけでなく岩見沢、美唄、赤平、芦別、歌志内、滝川そして夕張などを取材した。「幸福の黄色いハンカチ」の公開は1977年10月なので、映画に映っている街並みは、自分が訪れる約10前の風景である。だが、自分の記憶とほとんど変わらない。

 それよりも、映画をテレビで観ていて驚いたのは、夕張の街並みを往来する人の多さだった。炭住などで密集しているからだけではない。エキストラがいるかも知れないが、それでも当時の自然な日常を写しているはずだ。道端で遊ぶ子供たちの姿も多く、あの時代には「人」ではなく「人々」がいたことを改めて再発見したのである。子供はもちろん「人々」が生活しているのが当たり前だった...。

 あれから、すでに27年も経つが、いまでも鮮明に記憶に残っているものがある。その1つが三笠にあった「幾春別」という駅名だ。一説によると、アイヌ語のイ・クイ・ウン・ペット(彼方の川)から郁春別となり、幾春別になったという。しかし、幾春別という駅名は北の大地にふさわしいと思ったものである。さらに感慨深かったのは、鉄道の廃線に伴って幾春別駅が廃駅になったのが、三井砂川炭鉱閉山の前日の7月13日だったこと。奇しくも閉山と廃駅になる3週間ほど前に訪ねたのだった。

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