ある廃業
先日、あるセミナーに参加していた同郷の運送会社の社長と数年ぶりに会った。休憩時間に地元の事業者の近況などを聞くと、ある中小事業者が廃業したというので驚いた。その事業者とは浅からぬ因縁があったからだ。
廃業した事業者は兄が2代目社長で弟が専務だった。10数年前に地元の事業者7、8社で行った視察旅行に自分も参加する機会があって、専務と一緒になった。その時の専務の話で、高校の同級生だったことを思い出した。そればかりではない。「子供の時に父親に連れられて森田さんの家にいき、一緒に遊んだことがある」というではないか。あれこれ思い出しながら、「ひょっとしてオート三輪で来なかったか」と聞くと、「そうだ」というので記憶が僅かによみがえった。
たしか小学校低学年のころである。オート三輪で父親と子供が、何か手土産をもって祖父を訪ねてきた。その父親と祖父が話をしている間、「一緒に遊んでいろ」といわれて遊んだ記憶がある。
同級生の専務によると、運送事業の免許を早く出してもらえるように祖父に頼みにきたのだという。当時は運送事業は免許制で取得が難しかった。自家用車での営業行為はもちろん違法だが、免許申請には荷主がいるという「実績」が必要だった。ということは自家用ナンバーで違法行為をして「実績」を作らないと申請できないことになる。そこで違法行為はダメじゃないかと叱った上で免許をだすというので、「ゴッツン免許」といわれたのである。祖父は役人ではないが、「早く免許が出るように頼みに行った。森田さんのおじいさんには運送業をはじめる時にお世話になったと親父がよくいっていた」という。
まさかそのころ、自分が物流業界で取材・執筆・講演などをしようとは思っていなかった。その事業者が廃業したと聞いて複雑な気持ちになった。企業規模も小さく、運送会社として成功したとはいいがたい。社長(兄)
にも専務(弟)にも子供はあったが、おそらく経営を継がせなかったのだろうと思う。
11月3日づけの朝日新聞に、中小企業の減少を防止する策として、政府は事業継承や買収をしやすくする税制改正などを検討する、という記事がでていた。それにしても、感慨深いものがある。
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