単月か時系列か
先週、新潟駅から乗ったタクシーのドライバーの景況感は名言だった。地方に取材に行くと、たいていはタクシーに乗る。講演なら会場がほとんど主要駅近くのホテルなので歩くが、取材では不便なところが多いのでタクシーを利用する。先々週など、安中駅前(群馬県)で順番待ちしていたタクシーに乗ったら、偶然にも訪問する運送会社の系列会社の車だった。行き先を告げたら、「ありがとうございます。いつもお世話になっています」と言われたので、「グループのタクシー会社だっけ」と聞いたら、「そうです」というのでお互いに笑ってしまった。
過去にも何回か書いたが、タクシーに乗るとドライバーに最近の景気はどうか? と尋ねるようにしている。ドライバーは学者や研究者ではないので、地元経済を広い視野から分析しているわけではない。あくまで自分の身の回りの体験的な主観だ。だが、それを踏まえても参考になることがある。新潟のドライバーは、「ここ何年間は階段をゆっくり下りているような感じです」という。景況感を表現するのに「踊り場」という言葉がしばしば使われる。「ゆっくり階段を下りているような感じ」とは、なかなかうまい表現だと感心した。
奇しくもその日(5月24日)、政府が5月の月例経済報告を公表した。内閣府が5月13日に発表した景気動向指数では、基調判断を6年2カ月ぶりに「悪化」とした。そこで政府の月例経済報告が注目されていたのである。だが、月例経済報告では総括判断を2カ月ぶりに下方修正したものの、「景気は緩やかに回復している」との認識は維持した。月例経済報告では2013年7月からずっと「回復」としている。つまり、この間の政府の経済政策は間違っていないことになる。
だが、緩やかであっても自分には景気回復が実感できない。たしかに、その月だけを単月で見れば「緩やかな景気回復」という判断もあり得るのかな、と思わなくもない。だが、かりに12カ月間、緩やかに景気が回復し続けているとすれば、1年前と現在を比較するとかなり景気が良くなっているはずだ。先のドライバー氏のように、1カ月に1段ずつでも階段を下りていれば、1年では12段も下がったことになる。月例経済報告もゆっくり1カ月に1段ずつ階段を上がっているなら、1年では12段も上がったことになるのだが、果たしてどうだろうか。
もっとも、自分1人だけが世の中から取り残されていることもあり得るのだが…。
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