戦争と情報伝達
(夜の東京タワー=東京都港区)
3月23日18時から、ウクライナのゼレンスキー大統領が国会で12分間のオンライン演説をした。演説も上手で、よく練られた内容だったというのが第一印象だった。国会議員だけでなく日本国民に直接語りかけるせっかくの機会に、最大の効果を得ようという姿勢が感じられた。もちろん優秀なスタッフが揃っているのだろうが、話の内容や演出効果も含めて、あれほど政治的な姿勢や決意が伝わるような演説ができる政治家が日本にいるのだろうか。
ロシアでは政府系テレビ局「第一チャンネル」のニュース番組中に乱入し、手書きの戦争反対メッセージを掲げた女性編集者がいた。勇気ある行動で驚いたが、テレビニュースの画像を観ていて感じたのはマリーナ・オフシャンニコワさんの単独行動ではないのでは、ということだ。まず、異常を感じれば彼女がカメラの前に行く前に番組スタッフが止めるはずだが、誰も制止しなかったように思える。彼女が画面に映っている間も、カメラのフレームの外に出そうとする人がいなかった。
さらに女性アナウンサーが何事もないかのように淡々とニュースを伝えていたのも不自然だった。通常はオンエア中にアナウンサーの背後に人が近づくことはない。だから異変を感じるはずなのだが、平然とカメラを向いたまま話し続けていた。アナウンサーは気づかないふりをして、反戦メッセージが1秒でも長く視聴者に観られるように演じていたのではないだろうか。つまりアナウンサーも含めて番組スタッフの多くが、自分たちが伝えているのはフェイクニュースですよ、というメッセージを視聴者に放送したかったのだろう。
反戦を訴えた女性編集者は身柄を拘束されたが、モスクワの裁判所は3万ルーブル(約3万2000円)の罰金を科し、彼女は釈放されたようだ。「報道規制法」による15年の禁固刑になるのではないかと思っていたが意外だった。放送局には辞表を出したというが、禁固刑にしないで彼女を社会に放出した方がより酷い「罰則」を与えることができる、という政治的判断なのかもしれない。つまりプーチン政権は寛大な措置をしたのだが、「愛国者」がかってに「天誅」を下すというプーチン大統領の常とう手段だ。くれぐれも彼女には気をつけていただきたい。
ロシアで最近できた「報道規制法」は、報道の自由を封殺する法律で外国の記者にも適用されるという。まさかこんな事態になるとは思わなかったのだが、2021年6月28日づけの当コラムで「『リンゴ』堕ち『独裁権力』を知る」を書いた。香港の「リンゴ日報」の廃刊と習近平政権の言論封殺について書いたのだが、その中でむかしロシアがソ連だった当時の小噺を紹介した。「プラウダ(ソ連共産党機関紙)」を買いに来た人に、売店のおばさんが、わが国には「プラウダ(真実と言う意味)」なんてないよ、「イズベスチャ(ソ連政府広報紙)」なら何種類もあると風刺した話だ。「報道規制法」で、ロシアではますます言論統制が強まっている。日本も他人事ではない。
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