目の前を時が過ぎていく
浅草寺=東京都台東区
16日から17日にかけて台風7号が関東地方や東北地方の太平洋側に接近した。新幹線や在来線、航空機やフェリーの運休や減便など公共交通機関にも影響が出た。お盆の帰省や夏休みの旅行などの時期だったので、予定の変更を余儀なくされた人たちも多かった。
観光地やテーマパーク、お土産屋、ホテルや旅館などは「稼ぎ時」だったので、売上減少などのダメージは大きかっただろうと思う。自然には勝てないのであきらめざるを得ない。
世の中は夏休みやお盆休みなので、この時期は取材のアポイントも難しい。では家で原稿を書くかといっても、集中できないので仕事にならない。毎年のことだが、休むでもなく、仕事をするでもなく、ついダラダラと過ごしてしまう。とくに16日は台風が徐々に接近してくるというので、1日中ソファーに座ったり寝ころんだりしながら過ごした。ボーッとガラス戸越しに外を眺めていて、ふっと四半世紀以上前のことを思い出した。
あれは1997年6月だから、もう27年も前になるのか。アメリカの3PL企業の視察を企画し、参加者を募ってサンフランシスコ、ロスアンゼルス、サンディエゴなど西海岸の企業を回った。ロスアンゼルスで半日の自由時間があり、参加者はそれぞれ好きなところに観光に出かけた。だが自分1人だけはホテルでじっとして過ごしたことがある。
出発前から少し風邪気味だったのだが、ますますひどくなってきた。しかし、自分は企画者であり帰国してから視察報告書をまとめなければならないので、訪問先には行かなければならない。そこで半日の自由時間は何もしないでホテルでのんびり休むことにしたのである。だが、自分の部屋の窓から見えるのは空や高層ビルばかり。ホテルのロビーに移動して、そなえつけのソファーに座って街路を行き来する人たちを見つめていた。
その時、アメリカにまで来て何もしないでじっとホテルの窓から外を眺めているなんて、なんてムダな時間を過ごしているのだろうと最初は思っていた。だが、フッとひらめいたのである。いやそうじゃない。外国で何もしないで窓の外を見つめながら、ただ時が流れていくのに身を任せているなんて最高の贅沢な時間ではないか。この素晴らしい時間をより有意義にするため、雑念を払って頭の中を空白にしようと努めた。
台風7号の接近で、雲の切れ目から日が射したと思ったら、時おり強い雨や強風が繰り返すのを見ながら、四半世紀以上も前のことを思い出した。すると、仕事のことなど考えずに時が過ぎるのを楽しもうという気になってきたのである。
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